第1回レポート

第1回レポート

いなべの森で仕留めた鹿といなべの大地で育った旬の野菜を使い フレンチシェフが最高の料理に仕立てる

「Eat with nature/いなべの自然とともに食す」を通して生まれた繋がりといなべの可能性を感じた第1回。いなべの自然が凝縮されたツアーの幕開け。

2021年11月末、「Eat with nature/いなべの自然とともに食す」初のツアーが開催された。第1回はいなべに新たな風を吹き込んだ3名によるおもてなし。3名ともいなべの魅力や自然を知るそれぞれのフィールドで活躍するプロ。

ツアーは鈴鹿山脈から寒い北風が吹き荒ぶ中、始まった。当日は一段と冷え込み、まさに冬の始まりを感じさせる気候だった。寒空の下集まった参加者の皆さんが期待を胸にツアーバスに乗り込む。

最初の目的地は、八風農園の畑。ここでは旬の野菜たちの収穫体験が待っていた。

この日のために、収穫用の竹かごを用意した。竹かごを製作したのは、市内に住む竹細工職人の西川理さん。竹細工で有名な大分県別府で技術を学び、竹細工の展示会で受賞歴もある新進気鋭の職人である。

ただ竹細工を編むだけでなく、材料の調達から自分の手でやりたいとの思いから、縁があっていなべに移住してきた。竹の特徴や竹ひご作りの実演を行うと、参加者の方から驚きの声が上がった。今回の竹かごもいなべ市内の竹林で取れた竹を使っている。収穫したばかりの竹を使っており、まだ竹の青さが残っている。

職人の手によって作られた竹かごはしっかりしていて繊細で美しい。手に取っただけでモノの良さを感じる。

竹カゴを手に収穫へ。
案内は、松風カンパニーの代表で八風農園を立ち上げた寺園風さん。約6haの畑で年間80種以上の野菜を育てている。自然派農法で育てられた野菜たちは、みずみずしく青々と輝いていた。採れたての野菜をその場で食べてみせる。いつもの風景だが、参加者にとっては新鮮。みんな思い思いに畑に入り、野菜を食べたり、収穫したりしていく。

野菜は、白菜、水菜、パクチー、ルッコラ、とうもろこし、にんじんなど。

夏野菜のイメージが強いとうもろこしは自然派農法だとどうしても虫に食べられてしまい、丸坊主なんてことも。そこで時期をずらしたらどうなるだろうと挑戦しているという。とうもろこしは収穫した瞬間が一番糖度を持っている。実際に収穫してみると、味がしっかりついていて、生でも甘くて美味しい。こんな出会いも収穫体験ならではだ。

竹かごいっぱいに収穫された野菜たちはとても生き生きとしていた。

畑から15分程バスを走らせて向かった先は、青川峡に程近い里山。

バスから降りると一段と空気が澄んでいるのを感じた。

次の里山歩きを案内してくれるは、アウトドアクリエイターで狩猟の安田佳弘さん。里山で循環する暮らしをしている。本来は狩猟中の時期に人を入れることは無いそうだが、今回は特別に許可をもらい、山に入った。

山に入ると空気が変わった。そこは鹿が息づく里山。獣道に沿って森の奥へと進んでいく。

ところどころで立ち止まり、鹿の習性や体験談などを話していく。鹿のフンで餌場を見分けたり、木に残った角のなど、鹿とともにこの里山で暮らす安田さんだからこそ知る知識や知恵を実際に見ながら得ることができる。

途中、ヤマドリの羽を見つけた。とても綺麗で美しい。動物たちがまさにここで暮らしていることを実感させてくれた。

森の中を抜けると、安田さんが暮らす場所へ。山羊が出迎えてくれた。参加者たちは山羊の愛らしい姿に癒される。

里山での暮らしに触れつつ、奥にある鹿の処理場に案内してくれた。

自身で木を切り拓いて建てた処理場の前で、鹿の骨を使って、角や骨格についての説明は、鹿がその場にいるような雰囲気を感じる。
安田さんは何百頭と狩猟してきた鹿を全て丁寧に記録している。命をいただくからこそ、1頭1頭と向き合ってきた安田さんの言葉には、重みを感じる。
鹿の話を終えると、焚き火で作る野草茶をみんなで採取しようとなった。安田さんの案内でカキドオシや笹の葉などを積んでいく。自然の中には恵みが溢れている。

そこから少し歩いたところに焚き火場が広がっていた。ここも安田さんが一から切り開いた場所だ。
先程積んだ野草たちをポットに入れ、焚き火の中で煮立たせる。こんなワイルドな野草茶を飲んだ人は少ないだろう。
焚き火と野草茶の暖かさが疲れた体に染み渡る。火の揺らぎを見ながら、時が止まったかのように、癒される参加者の皆さん。日が暮れ始めたところで里山歩きは終了。安田さんと一旦別れを告げ、ディナーの待つにぎわいの森へ。

最後は待ちに待ったディナー。

料理人はにぎわいの森にある「FUCHITEI」の泓シェフ。長年、名古屋のビストロ店を営んでいたフレンチシェフで、この一夜のために、いなべの食材を使ったフレンチメニューを作り上げた。

にぎわいの森に到着すると、まずは冷えた体を温めるため、FUCHITEIの店内でウェルカムドリンクの「かぼすねーど」が振る舞われた。地元で取れた無農薬のかぼすを丁寧に仕込んだ酵素シロップドリンクは、地元のフレイトレシピの新作。体を温めてくれるだけでなく、かぼすに含まれるクエン酸が、畑や山で歩いた疲れも癒やしてくれる。

あたりが暗くなり、ついに屋外レストランへと案内される。この日のためだけに用意された1日限定のレストランだ。
参加者の皆さんからも驚きの声とこれから始まる食事への楽しさが伝わってくる。
テーブルには、今回スタッフが身につけたものと同じ手ぬぐいが置かれていた。いなべ市で活躍する3者で作り上げた手ぬぐい。デザインは100年着たい衣服をつくる「toi desaigns とわでざいん」、美しい藍染は江戸時代の灰汁発酵建ての技法を伝える「藍染工房∞エノクの輪」、そして銀箔は『OYA PRESS』によるシルクスクリーン。

レストランの開始の挨拶に、主催のグリーンクリエイティブいなべ代表かついなべ市副市長の岡正光から開催に至ったいなべの思いとこれからについて熱く語られた。
「いなべには素晴らしい自然がたくさんある。そして、個性溢れる人たちがたくさんいる。本日体験いただいたものはまだまだほんの一部。ぜひ今回をきっかけにいなべとつながっていただけたら嬉しい。そして、これからもサスティナブルな要素を取り入れつつ、魅力ある体験や食を提供していく。」

乾杯が終わると、まずは温かいスープが振る舞われた。八風農園の野菜がふんだんに使われた田舎風スープ。

熱々のスープが疲れた体と空腹の胃袋をじんわりと温めてくれる。寺園風さんも会場に駆けつけ、スープの味や野菜について一言添えてくれた。

前菜は、鹿のテリーヌや里芋の燻製など4品。目の前で盛り付けられていく。パンもいなべにある「魔法のぱん」と「山の下のパン屋」の2種が添えられた。

この日のために協力してくれた地元の飲食店(上木食堂・nord)で働く2人が、丁寧におもてなししていく。

そしてメインは特製のコンロで温められた鹿の腿肉の赤ワイン煮と一緒に添えられたのはシンプルなグラタン・ドフィノワ。泓シェフが自らテーブルに向かい、振る舞っていく。美味しい料理に参加者の皆さんとの会話も弾む。

安田さんからも鹿肉についての話が添えられた。

最後のデザートはパティシエ兼ソムリエである泓シェフの奥さんより、いなべのほうじ茶を使ったスフレチーズケーキが用意されていた。

半日に及ぶツアーもここで終了。泓シェフから最後の一言をいただいた。

「いなべの最高の仲間たちとこの場を作り上げることができて楽しかった。ぜひ、またいなべにお越しください」
この日のために作り上げたチームでの最後を惜しむかのように、お客さまからも大きな拍手をいただいた。

Eat with nature の第1回の幕が下りた。
まだまだ始まりに過ぎない。お客さまとのつながりだけではなく、いなべで活躍する人たちにもつながりが生まれた。人を変え、場所を変え、季節を変えて続くこのプロジェクトは、第2回に向けて動き出している。

 

[Member]シェフ:泓昂溫(FUCHITEI) 

Green Creative Inabe

Eat with nature